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その他・外国語教育センター
小玉 安恵
職名 | 教授 |
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専攻分野 | 社会言語学 |
主要著書・論文 | 『文法を教える:実際の場面で使えるようになるために』、2010年1月、国際交流基金日本語教授法シリーズ、ひつじ書房 「体験談における歴史的現在形の機能と視点」、2011年4月、『日本語教育』148巻4月号、pp.114-128. 「体験談における引用助詞ッテ、ト及び無助詞の機能」、2019年3月、『社会言語科学』21巻2号、社会言語科学会、pp.18-33. 「面白い話が本当に面白い話になるために必要なこと」単著、2020年9月、『社会言語科学』、23 巻1号、社会言語科学会、pp.178-193. 「非難の因果構文のル形の生起条件と否定的ニュアンス生成のメカニズム: 日本語母語話者への言語内省アンケートから見えるもの」単著、2021年9月、 『言語研究』160 巻、日本言語学会、pp.273-286. “Why the Monterey People Welcomed the Japanese Americans’ Return from the Internment Camps at the end of WWII: An Exploration from Multiple Perspectives.”, 2023 年9月, Digital Humanities Faculty Research, “Journeys toward Inclusion”, SJSU King Library NEH Challenge Grant, A Digital Humanities Center. “Houses for Hiroshima: Floyd Schmoe and the People Who Brought his Vision to Life”, 共訳,チーム編集 (Katie Stoy, Kyle Carrion),監修,2024年2月 (原題:フロイドシュモーと仲間たち) |
将来的研究分野 | ジェンダーとセクシュアリティーと言語の関係 |
担当の授業科目 | 中級・上級翻訳、言語と文化、日本語教育文法(初級) |
言語が先か、社会変革が先か?―社会言語学という学問―
LGBTQ+。最近よく耳にするようになった言葉ですが、生物学的な性(出生時の性器の形で決められた性)、性自認(性的アイデンティティ。自分は男なのか、女なのか、それともどちらでもないのか)、それから性的指向(性的にだれを好きなのか)という3つの基準が入り混じった言葉です。アメリカ生活大学院生としての時期も含めると計20年以上、そしてアメリカの大学に17年間勤めた経験から、これらのことに敏感にならなければいけないことが多々ありました。
外見と違う性自認の学生はクラスの最初の日に、自分のことを〜と呼んで欲しいと、名簿とは違う性の名前で呼ぶことを私に要求してきます。その要求に忠実であろうと努力するのですが、そこは主語が避けられない英語のこと、たまに無意識にHeとSheを間違って使ってしまうこともありました。そういう時は学生に抗議されて、「えっそうだった?本当にごめんなさいね。」と平謝り。私生活でも自分の子供の誕生日に招待したお子さんのご両親がレズビアンのご両親で、普通に話せばいいものを、初めて話した時は話すトピック選びに結構緊張したり、、、と、今思い返すと、最初のころは本当に無知だった自分がいました。
今、アメリカでは、自分の性自認を人称代名詞で自己開示して、名札やZOOM、メイルなどにも普通に名前の後に( )つきで書きます。例えば、She, her, herやHe, his, himなどがそうです。宇多田ひかるで有名になったnon-binary(女性でも男性でもない性)も、itという人称詞を使うことを要求する人もいます。ただの味気ない文法用語のように思われがちな人称代名詞ですが、実は人のアイデンティティに関する重要な情報を含んでいます。また、歴史的にみても、その使用の盛衰と移り変わりの背景には社会的変革のドラマがあります(例:英語の二人称単数形Thouが、複数形Youに乗っ取られた事件など)。生物学的なレベルでの染色体やホルモンシャワー、脳の性の研究が進み、科学的な性のあり方も、先天的で、固定的なものから、より多様で、後天的で、流動的なものへと変化していますが、それを無視し続ける人たちもいます。
社会的常識が変わるとどう言語が変わるのか、また、逆にもっとラディカルに社会的不平等をどう言語で変えていくのか、言語の役割は私たちが思っている以上に大きい、それが社会言語学に興味を持って研究し続けている私の感想です。今後、ジェンダーと言語の関係はどう変わっていくのか、あるいは変わっていくべきなのか、南山大学で一緒に考えてみませんか?