南山の先生

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その他・外国語教育センター

佐々木 陽子

職名 准教授
専攻分野 国際(異文化間)コミュニケーション
主要著書・論文 ・「書評『なぜ戦争は伝わりやすく平和は伝わりにくいのか-ピース・コミュニケーションという試み』」,『新英語教育』2016年4月号 45.単著.
・「当事者研究スゴロク―逸脱を受容し共存する人間観へ」2015年12月『日本シミュレーション&ゲーミング学会 全国大会論文報告集』2015秋号,100-105,共著 ささきようこ 陸奥 賢.
・「ハイブリッド社会におけるPLAY(演劇パフォーマンス)による他者理解の可能性」2015年9月『日本心理学会 第79回大会,CD-ROM版発表論文集』,日本心理学会.共著 石黒広昭, 佐々木陽子, 土屋由美.
・「対話と共生のための社会シミュレーション・ゲーミング―イスラエル・パレスチナ地域における実施の意義と目的」2012年『日本シミュレーション&ゲーミング学会全国大会論文報告集』2012年度秋号,7-10.単著.
将来的研究分野 多文化共生社会の実現に資するコミュニケーション・デザイン研究
担当の授業科目 基礎演習 日本語表現技術 日本語運用

違ったまま共にある「多文化共生」社会のコミュニケーションに向けて

多民族化、多言語化する社会の課題に対し、私は社会コミュニケーションという点から研究をしています。

これまでとくに学術的評価を受け国際的にも展開してきたのが「社会シミュレーション」による対話の研究です。ミクロな存在である個人にとって把握しがたいグローバルな経済交流や環境問題、政治的対話などを模擬的に経験させることにより大局的認知を醸成する装置である「社会シミュレーション」の設計と実施を通して、国際的な動きを学び、共生に関する認知の変化を調べます。とくに紛争や地理的断絶など直接的関係が作りにくい場合、広域問題への理解や協力を作る方法を支援します。この研究は、固定的な知識では得られない新たな動態知を創りだすものとして、近年ようやく広く注目を集めてきており、今後の応用と発展性の高い研究分野です。

多文化コミュニティの形成現場では、芸術を介した国際的まちづくりの取り組みも重視されており、私は専門家としてとくに芸術を使った国際化の取り組みに対して、学術的支援や共催、政策提言を行っています。名古屋市と南京市の音楽交流事業、地域対話のためのトランセンド法プログラム(おおさか社会フォーラム)、ワークとアートを用いた日朝関係共同学習会(大阪大学)、多文化を背景に持つ子どもの共生演劇の参与観察(パレスチナ他)、大阪大学コミュニケーションデザインセンターによる地域交流事業(大阪市内サイエンスカフェ、アートラボ、文化庁支援によるコミュニケーション事業)など、多元的な文化の「場づくり」とそこでの「学び」を研究しています。

研究方法としては、聞き取り調査や文書資料などを基にした伝統的な人文社会学の分析手法だけでなく、自由連想PAC分析法、描画法など最新の心理調査研究手法を併用することで、概念的になりがちな「共生」「多文化」を、できるだけ科学として扱おうとしています。また設計した事業を、参加者感想とともに記録を残すことで、今後の事業を行う人や教材開発のための資料共有化にもつとめています。

社会心理学に多くの基盤を置いてきたのが「コミュニケーション」研究ですが、私はそれに加えて、アジアやアフリカなど旧植民地から創出された知、女性や障がい者など社会のマイノリティから提示された知、それらを通して形成された文化研究諸理論(ポストコロニアル研究、フェミニズム研究、カルチュラルスタディーズなど)をも援用します。国際的な学術研究交流はとても重要ですし、「工学系」「デザイナー部門」「平和学」など多様な他の学問との協力(学際性)も重要です。NGOを含めた産官学ネットワークを通し、地域や産業の国際化が進んでいます。ステレオタイプ的に「〇〇の人々の文化はこうだ」などという本質主義的な文化観ではなく、同じ国の中にも民族や文化の多様性・グラデーションがあることを認め、さらに、これまでもこれからも人と情報の絶えざる動きの中で現在のあり方すら変容しつつあることを前提にした「文化観」も、文化を研究する人々の大切な共通認識です。そのため、多文化共生のためのコミュニケーション学では、「多様なあり方を調整する能力」としてコミュニケーションの場を創出し、そこでのジレンマ調整の力を養うことを重視します。多様なあり方が併存する今後の社会では、よりいっそう、コミュニケーションの場を創出する「コミュニケーション・デザイン」が重要になってくるでしょう。国際・異文化コミュニケーションを基礎にして、「多文化共生」に関する基本的なものの見方や社会的事実、学術理論を身に着けることは大学時代にぜひなしとげておきたいことがらです。学内外に公開されている多文化共生イベントや、様々な対話的ワークショップに参加することで、グローバルな課題が「関係のない遠い知識」ではなく、「自分も関わることのできる理解できる動き」となるでしょう。学生の皆さんが、卒業後も長く自然な形で、この国際化していく共生社会の一員となっていけるよう応援しています。

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学内授業で行った「フューチャーサーチ」の様子 (2013年1月13日撮影)