南山の先生

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五島 敦子

職名 教授
専攻分野 教育史・比較高等教育・生涯学習
主要著書・論文 『アメリカの大学開放』(単著、2008年)学術出版会
『未来をつくる教育ESD』(共編著、2010年)明石書店
『大学は知の拠点となれるか』(共著、2016年)ミネルヴァ書房
将来的研究分野 現職教育、大学と地域の連携
担当の授業科目 学校教育概論、学校教育制度論、教職実践演習、比較教育学

世界の教育制度を学ぶことによって、何が見えてくるでしょうか?

(1)私たちの教育を振り返ってみましょう

私たちは、自分が受けてきた教育を「当たり前」だと思っています。しかし、果たして本当にそれは「当たり前」なのでしょうか?たとえば、欧米諸国の留学生が日本にくると不思議に思うものは、予備校や塾の立派な建物です。「日本の学校は何のためにあるの?」と聞かれたら、みなさんはどう答えますか?大学入試があるから仕方がない、と答えるかもしれませんね。

アメリカでは、日本のような一発勝負の大学入試はありません。各大学のアドミッション・オフィスに、SATやACTなどの統一テストの成績、高校の成績、志願動機書などを提出して、書類審査を受けます。アメリカでも一流大学に入る競争は厳しいですが、テストの成績だけがよくても、課外活動での優れた活躍がなければ、高い評価を受けることはできません。ドイツでは、大学毎の入学試験はなく、大学入学資格を取得して、希望する大学に出願します。もちろん、近年は進学希望者が増えているので、大学入学資格試験や適性検査の成績で入学制限が行なわれます。ただし、第一希望に入学できるまで待機するか、第二・第三希望に進学するのであって、再受験するのではありません。

こうした国々から来た留学生からみれば、毎年、多数の「浪人」が生み出されて予備校生活を送る日本の受験生は、とても不思議に思えるのです。

(2)「比較」によって見えてくること

世界の教育制度を比較考察することによって、何が見えてくるでしょうか?「比較」という行為は、「合わせ鏡」を用いて自分を映し出すことです。みなさんも、後に鏡を置いて前の鏡を覗きこんだとき、いつもと違う自分の後ろ姿を見て驚いたことがありませんか?外国の教育制度を知ることは、普段は見えていない自国の教育制度を見直すことにつながります。つまり、自国の教育の特質や問題をよりよく理解するためにこそ、外国との比較考察が大切なのです。

日本の教育を改革しようとするとき、外国の教育制度のなかに成功モデルをみつけて、そこから役立つ情報を得ることはとても有効な方法です。しかし、単に外国の成功例を導入しようとしても、歴史や文化が異なる日本では、うまく根付かないかもしれません。成功の要因を、文化的・歴史的・社会的な側面から分析したり、教育課程の構造や重点の置き方、それらの背後にある思想的相違を考察したりすることで、日本にとって何が本当に有効なのかを特定する必要があるでしょう。私は、こうした視点から、アメリカ大学史を研究しています。

(3)国家の枠組みを超える教育をめざして

各国の教育制度は、国家のための国民形成を担って発展してきました。しかし、グローバル化の進展につれて、国家の単位では解決できない多様な問題が生まれています。国境を越えて移動する労働者、貧富の格差、人種や民族の相違による偏見や差別など、さまざまな問題の解決に向けて、私たちはどのような教育の理念を提示すべきでしょうか。

これまでの教育は、地球の有限性を顧みないままに、「持続不可能」な経済成長を求める社会を前提としてきました。その前提が限界を迎えた今、これまでの教育と経済社会の関係を見直し、「豊かさ」の意味を再考する必要があります。多様な価値観が拮抗する今日だからこそ、勝ちか負けか、国家か個人か、自由か規制かといった二分法ではなく、物事をホリスティックにとらえ、世界のつながりを意識することによって、これからのあるべき社会を一緒に考えていきませんか。