
人文学部キリスト教学科 教授 ハンス ユーゲン・マルクス
 ほとんど毎日、ジョギングをする。
山崎川沿いの静かな道を瑞穂グランドまで走る。
朝食はいつもサラダ、フルーツ、納豆そしてみそ汁。シンプルで健康的だ。
「眼の色以外は全部日本人」になったわたしにとって、みそ汁は欠かせない。
冒険小説や旅行伝記が大好きで、世界を見たかった。
三十五年前、日本にやってきた最初の朝、みそ汁、つけもの、ご飯が出された。
よく見るとご飯の上に何かいっぱいのっている。これは何だ!
頭としっぽがついた小さな魚たちの眼、眼、眼……
逃げ出したくなった。
生まれ育った国ドイツでは切り身の魚しか食べなかったから、
「しらす干し」の幼魚の眼はいかにも薄気味悪かった。
自分は日本に骨を埋めに来たんじゃないか。
思いきって一気に食べた。ほんとうにまずかった。
当時、鎌倉の学校で一年半ほど、日本語の読み書きを習っていた。
最初に読んだのは芥川龍之介の「鼻」。夏目漱石の「門」も熟読した。
一日に三十の漢字をおぼえながら、だんだん日本人のこころになるようでうれしかった。
そして徐々に日本の食べ物をおいしいと感ずるようになった。
自分から分かろうとすると、相手も近づいてくる。不思議だ。
私を名古屋に連れてきてくれたのは、二代目学長の沼澤先生だった。
学生だった私にとても親切で、優しかった。
世の中は不思議な巡り合わせに満ちている。
まずいものが美味しくなるのも、不思議な巡り合わせにちがいない。 |