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パリにあるINALCO(国立東洋言語文化大学)で専任日本語教師として働いています。INALCOはフランスでもっとも古くから日本語を教えている、伝統ある大学。私は、大学生に日本語会話や作文、漢字などを教えています。フランスでは、日本のマンガやアニメの影響もあり、日本ブームが続いているんです。日本語を勉強したい!という学生がとても多く、私も多い時には100名ほどの受講生を受け持つこともあります。東日本大震災が起こった後も、この日本への人気は続いているんですよ。
授業ではまず、重要な部分をフランス語で説明します。日本語を使い説明するのは、学生たちの基礎がきちんと固まってきたと感じてからです。宿題もたくさんありますし、勉強量が多いのですが、みんな頑張っています。
大学院生の時に、初めて日本語を教える仕事をしました。大学生の頃から日本語教師を目指していた私に、愛知国際学院で大学進学を目指す外国人留学生に日本語を教える仕事を、先生が紹介してくださったんです。その後、AOTS(財団法人海外技術者研修協会)中部研修センターでも外国人技術者の方々に日本語を教えました。
その後、パリにある民間の日本語学校で専任講師として勤務が決まり渡仏。その翌年からパリ・ディドロ大学(パリ第7大学)で日本語を教えることになりました。

実は、日本にいる頃から応募し続けていた仕事だったのですが、ずっと採用されず…。ところがフランスに渡って日本語教師として仕事をしていることが関係者の耳に入ったようで、「今年は受けないの?」と声をかけてもらえました。どうやら、毎回採用候補にはなっていたようで、大学側も印象に残っていたようです。あきらめずに応募し続けていて良かった、と思いました。思い切って渡仏したからこそ、こうしてフランスの大学で日本語教師をしている今がある。不安もあったけれど、決断してよかったと思っています。
当たり前なんですが、日常で自然と話している日本語も、教えるとなると難しいことばかり…ということですね。例えば「私は」なのか「私が」なのか。ごく自然に使い分けているからこそ、教えるとなると一苦労です。上手な教え方をするというより、例文をたくさん出して、実際に使って慣れてもらう場合もあります。それから、日本語の「情」と完全に等しくなる単語がフランス語にはなかったり、反対にフランス語の“On s'appelle”と同じニュアンスの挨拶が日本語にはなかったり、訳しきれない言葉も多いんですよ。ちなみに、“オンサペル”とは「後で電話をかけあいましょう」といった意味あいです。日本人の私は、「電話をかける側はどちら?」と疑問に思いますが、フランス人は、「どちらかがかけるか」を明確にしないことがあるんです。言語も文化の一部ですから、国によって特色があるんでしょうね。言語を学ぶと、その国がどんな国で、どんな生活をしているかが垣間見えるような気がします。私が教える学生たちにも、言語を通し、日本という国に興味を持ってもらえたらうれしいですね。
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初めて学んだのは、南山大学在学中です。第二外国語として選択したのがフランス語だったのですが、多くの文法規則から論理的に組み立てられる構造を学ぶうちに、なんて美しい言語なんだ、これを使うフランス人はどんな人たちなのだろう、と興味がわきました。もともとフランスは何度か訪れていて、カフェの立ち並ぶ街並みや雰囲気がおしゃれで素敵だなぁ、という憧れがありました。
きっかけは、大学3年生の頃に南山大学の「認定留学」という制度を利用して行った、イギリス留学。留学中に仲良くなった英語の先生が、ショートフィルムを見てディスカッションしながら言葉を覚えていく、という語学の授業を行ったのですが、それに驚いて…。当時の私は、文法を学びましょう、発音してみましょう、という日本の学校や民間スクールの教え方しか知らなかったので、「こんな教え方もあるんだ!」ととても新鮮に感じました。今まで日本で受けていた授業は、色々ある教え方の中のひとつでしかないと気づきました。教え方は先生の数だけある。言語を教えることの奥深さを知り、日本語教師になりたいという思いが芽生えました。

フランス語の文献を訳す授業ですね。フランス語を学んでいたとはいえ、難しい文献をすらすら訳せるほどではなかったので、大変苦労しましたが、内容がとてもおもしろかったです。文献は哲学者サルトルのもので、卒業論文でもその研究を続けました。フランス哲学の基礎知識を学んだことは、今になっても活きています。哲学や宗教に関する知識は、フランスでは一般常識。普段の会話に出ることも多く、大学で学んでよかった、と何度も感じました。
哲学や宗教の授業は、就職に直結していないため、学生のみなさんは、勉強する必要を感じにくいかもしれません。でも、すぐに役立つ知識を学ぶことだけが、「学ぶ」魅力ではないと思いますよ。文学、思想、文化、政治、経済…すべてを言い切れないですが、時間をかけて様々なことを学び、知識と経験を積み重ねることで、それが教養となり、その人の魅力となっていくと思っています。私も、本を読んだり、美術館へ行ったり、文化的なイベントに参加してみたりと、視野が狭くならないよう、自分のアンテナを広げておくことを心がけています。
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「海外で」働いたり暮らしたりすることに、憧れている方もいるかもしれませんね。だけど、自分の慣れ親しんだ国を離れ、生活するということは、夢のような事ばかりではありません。日本の常識が通用せず、「夢や憧れだけでは海外で生きていけない」と何度も痛感しました。海外で生きていくためには、日々の生活で予想外のことが起きても動じない心の強さと、想定外の事態に対応できる柔軟性が必要だと思います。
また、語学力はもちろんですが、個人の魅力が備わっていることも大切です。大勢の人と話すためには、たくさんの話題を持っている方が良いですよね。だから、趣味を持つことも大事ですよ。私は、ダンスをやっていたのですが、それがきっかけで多くの友人をつくることができました。

みなさんは今、希望に満ちた時を過ごしています。周りの意見に惑わされて自分のやりたいことを見失ってしまったり、やりたいことをあきらめてしまったりすることは、本当にもったいないこと。人と違うこと、失敗することを恐れずに、自分の興味のあることにどんどんチャレンジしてください。私も、「無難な道は後から選べば良い」と考え、思いきってフランス行きを決意しました。挑戦を続け、自分の納得のいく人生を歩んでほしいなと思います。
(2012年4月)
2012年4月現在

| ちば えりこ | ||||
| 千葉 絵里子 | ||||
| フランス 国立東洋言語文化大学(INALCO) 専任日本語教師 | ||||
| 2003年3月 | 文学部 哲学科 (現:人文学部 人類文化学科) |
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| 1999年3月 | 南山高等学校女子部卒業 |
| 1999年4月 | 南山大学 文学部哲学科(現:人文学部 人類文化学科)入学 |
| 2001年4月 | イギリスノースロンドン大学へ留学 |
| 2003年3月 | 南山大学 文学部哲学科 卒業 |
| 2003年10月 | 愛知国際学院で日本語教師として勤務 |
| 2005年3月 | 南山大学大学院外国語学研究科修了 |
| 2005年10月 | AOTS(財団法人 海外技術者研修協会)中部研修センターで日本語教師として勤務 |
| 2008年3月 | 名古屋大学大学院文学研究科修了 |
| 2008年9月 | 渡仏。Yutaka France Japon Managementで専任講師として勤務 |
| 2009年9月 | パリ・ディドロ大学(第7大学)で専任日本語講師として勤務 |
| 2011年9月 | INALCO(国立東洋言語文化大学)で専任日本語講師として勤務 |