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第12回
「演習I 」

井上知子



環境問題を経済学的な視点から考える

授業風景

地球温暖化防止へのアプローチについて説明

井上 知子いのうえ・ともこ  経済学部助教授、経済学科。専攻分野は「理論経済学」。長期テーマは「環境問題の経済的側面の研究」。短期テーマは「環境政策と経済成長」。担当科目は『中級ミクロ経済学』『経済学のための数学』など。



 2004年度の私の「演習I」は、「環境問題を経済学的な視点から検討する」をテーマとして、そのために必要な経済理論の基礎を学ぶゼミです。ここで重要なことは、「経済学的な視点から」という点です。つまり、「ごみを自分勝手に捨てるのは良くないことだ」といった、環境問題を善悪の視点から捉えるのとは少し違います。例えば、粗大ごみを捨てるという行為に対して、少し前までは費用はかかりませんでした。しかし現在では、名古屋市の場合、粗大ごみ1つあたりに最大1,500円の料金がかかるようになりました。つまり、通常の財に価格が付いているのと同じように、「ごみ」という「負の財」に対しても価格を付けることによって、それらを明示的に経済取引に含めて考えようというのです。これまでは、その取引に対して費用がかからなかったわけですから、費用が発生するようになったいま、人々の行動も変わってくることでしょう。
 演習では特に、2005年の2月に発効した京都議定書の中に盛り込まれている「排出権取引」について、簡単な経済理論を用いて、その長所短所を見てきました。写真は、秋学期も終わりに差しかかった頃、発表者が京都議定書に提言された地球温暖化防止への様々なアプローチについて、説明をしているところです。しかし、ここにたどりつくまでには、実に多くの準備が必要でした。まず、経済主体の最適化行動の基礎理論、さらにそれを学ぶために、多変数関数の性質などの数学的基礎も学びました。また、彼らが発表の際に用いるレジュメを作成するための技術、例えば、数式エディタや描画オブジェクトの使い方、あるいはパワーポイントの使い方など、ワープロソフトの使い方も学びました。彼らの大多数は、それらに関してゼロからスタートしなければなりませんでした。
 「環境問題を経済学的な視点から検討する」といった目標の達成には、まずそのような多くの地味な学習があり、そのため最初の頃は、それに閉口してしまった学生もいました。春学期の段階では、彼らの発表の途中で私が注釈を入れてその議論の方向を修正したり、発表者の間違った理解を訂正したり、といったことが何度もありました。しかし、秋学期の終わり頃にもなると、私が説明を加えようとすると、「そこの部分は調べてありますから」あるいは「この理屈は自分で説明できます」といった言葉も聞かれるようになり、私は、安心して発表を聞いていられるようになりました。大学に入って初めて学んだ知識を駆使して、数式やグラフの散りばめられたレジュメを作成し、それを使って人前で発表を行う彼らは、本当に頼もしく感じられました。
 私はいま、彼らの1年間の勉強の集大成である論文を読んでいます。それらは、論文としてはまだまだ粗い印象を持ちましたが、学部1年生らしい一生懸命さは伝わってきます。なかなかの大作もいくつかありました。それらの論文を読んでいると、それを書いた学生が発表したときの姿が思い出されます。いま1年間を振り返り、学ぶ姿勢を持った学生が多く集まった本当によいゼミだったなと感じています。
 最後に、話は変わりますが、近年、経済理論を学ぶ際に数学的な記述を避ける傾向があるようです。しかし私は、経済理論は、ある程度数学的な記述を使用しながら理解した方が分かりやすい場合もあると考えています。そして、数学的な記述を避けるのではなく、それを上手に利用していくという姿勢で私は演習に取り組んでいます。私のこのような考えに賛同して演習に参加してくれたゼミ生たちに、いまとても感謝しています。