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システムと制御
高見 勲




高見 勲たかみ・いさお 

数理情報学部教授、数理科学科。専攻分野は制御理論。長期研究テーマは「大規模複雑システムの解析、設計」。担当科目は『システム工学』『制御理論』など。

 私の研究分野はシステムと制御です。システムとは複数の要素が有機的に結合して与えられた目的を達成するものです。その中で制御システムは動的な対象に対し調節、監視、管理を行うことを目的としたものです。私達の周りには制御システムが溢れていると言っても過言ではありません。今いる校舎を例にとると、外気温度の変動に対し室温を希望の値に調節する空調システムや、要求に応じて停止フロアの優先順位を決め運行するエレベータ管理システム、火災検知器などにより異常を監視して安全性を確保する防災システムなどは制御システムです。
 制御は工学に属しますが、電気工学や機械工学と本質的に異なる側面を持っています。それは、制御工学が特定の対象に限定されない横断的な学問であるということです。私は長年発電所の制御に携わってきましたが、基本的な考え方はロケットにもロボットにもエアコンにも適用できます。制御工学の基本となるものが制御理論であり、古典制御理論と現代制御理論があります。古典文学と同様、古典制御理論は作られた時期は古いのですが(確立されたのは20世紀半ば)、現在でも利用できるものが多々あります。特にフィードバック制御は目標値と実測値の偏差に応じた操作量を対象に戻す方式であり、あらゆる制御理論の根幹を成すものです。古典制御理論が機械、電気、通信等において個々に展開された制御方式を集約して体系化したものであるのに対し、現代制御理論は数学をベースとしてその上に構築された美しい理論体系です。現代制御理論はシステムの内部状態を表現する変数の動きを状態方程式と呼ぶ数式を用いて記述することが特徴であり、古典制御よりも情報量が多く、優れた制御が可能です。その代表的な成果の一つが可制御性で、状態変数を任意の初期状態から任意の終端状態に任意の時間で遷移させることが可能であるという性質です。システムがこの性質を持つか否かは状態方程式から容易に判別できます。現代制御理論は、対象のモデルが数式として完全に記述されることが前提です。ところがほとんどの場合、完全さということは期待できません。モデル化に際して無視した項や、対象の経時変化などがあるからです。このためモデルと実対象の間に誤差が生じても期待した性能が得られるような制御方式が現実的であり、これに応えるように考え出された理論がロバスト制御(頑健制御)です。
 現代制御理論は優れた制御が可能ですが、これを実用化する上で課題が多く残されています。これを解決することが私の研究テーマの1つです。主要な課題は2つあります。1つ目は現代制御理論がその効果を顕著に発揮する問題は何かということです。2つ目は取り扱いが容易な制御方式です。機能と構成要素の対応が明確な構造を持たせた制御システムを構築し、設計者と現場での調整員が分かり易く取り扱い易い制御システムにすることです。この考え方は制御ループを数多く備え、一箇所の不調が多大な損失を惹起する大規模システムに対してより重要です。
 最近力を注いでいるもう1つの分野が治水における制御です。治水は制御の原点であり古代中国の尭・舜・禹の時代にも川の流れを制御することに力を注ぎました。日本では信玄堤が有名です。治水では上に述べた狭義の制御に加え、広義の制御としての監視・管理の機能が要求されます。具体的には治水設備であるダム、堰、排水ポンプ設備に関する制御システムが対象です。これらの治水設備は河川流域の人命と財産を守るためのものです。台風などの洪水時に確実に要求された機能を果たす必要があります。よって運転員には高いストレスが掛かります。このストレスを軽減し、通常の意識レベルで運転することにより、運転の信頼性を確保するために、流域の状況と設備の状態を監視し、確実に操作ができるよう運転員に対し整理した情報と操作手順を提供する運転支援ステムがあります。この中には設備の故障診断機能も含まれます。ここでもシステムの使い易いさが要求されます。このため河川、治水設備、制御システム及び運転員の関係を分析し、人間の思考過程に沿って情報を提供できる制御システムを設計することが課題となります。
 制御の面白さは、他の学問に比べて比較的容易に自分の考えたことが実現でき、その成否が分かることです。その瞬間は緊張します。喉が渇きます。手に汗を握ります。心臓の鼓動が聞こえてきます。成功の瞬間の達成感はなにものにも代えられません。これを一度味わってしまうと忘れられず病みつきになってしまいます。しかし残念ながら私の経験では成功よりも圧倒的に失敗の回数が多いのです。それは制御の対象が自然界であり、人知を超越した現象を示すことがしばしばあるからです。過去に何度も自分の拙さと、自然界の偉大さを思い知らされ、その都度、「お前は何もかも知っているわけではない。謙虚になれ。」と教えられました。制御を学ぶには自然に対する一種の倫理観が必要であると思います。制御の基本であるフィードバック制御は、自分が行った行為の結果が期待したものと一致していなければその違いを反省して行いを改め、再度その結果を見て、また反省を繰り返します。よって制御を学んでいれば謙虚な人間になれるはずですが、未だ傲慢なところがある私は学び方が不十分なのでしょうか。