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ノーベル賞受賞者を囲むフォーラム「21世紀の創造」
大江健三郎氏、アマーティア・セン氏を招き

主催 /
南山大学、読売新聞社、NHK
協賛 /
トヨタ自動車、日本アイ・ビー・エム、日本航空、清水建設
後援 /
外務省、文部科学省


 南山大学は十一月七日、南山学園講堂において、ノーベル賞受賞者の大江健三郎氏とアマーティ ア・セン氏を招き「自立した精神とモラリティの再建―人間の尊厳のために」と題した文学フォー ラムを開催した。これは、読売新聞社とNHKなどが全国で開催しているノーベル賞受賞者を囲む フォーラム「二十一世紀の創造」のひとつ。本学は名古屋会場主催者となり、渡邉学教授がコー ディネーターを務めた(一面参照)。南山生のフォーラムへの関心は非常に高く、訪れた九百十名 の聴講者のうち、四百名を本学学生、また、百九十名を南山高等学校の生徒が占めた。質疑応答の 際には三名の大学生と二名の高校生が大江氏とセン氏に質問するチャンスを得た。
 このフォーラムの企画を担当したワーキンググループからの報告は以下のとおり。


大江健三郎氏
1994年 文学賞受賞 作家 1935年愛媛県生まれ。
東京大学文学部卒。代表作に「万延元年のフットボール」など。米国芸術アカデミー会員。長男は作曲家の大江光氏。

アマーティア・セン氏
1998年 経済学賞受賞 英・ケンブリッジ大学教授
1933年インド生まれ。英ケンブリッジ大学卒。英オックスフォード大学教授、米ハーバード大学教授などを務め、1997年から現職。


 基調講演で大江氏は、「人間の尊厳」というものは、それが何であるかを言うのが難しく、それが傷つけられたときに、人々はその重要さを生き生きと実感することが多いと指摘した上で、にもかかわらず、「人間の尊厳」とは何であるかを語りたいのだ、と講演のテーマを明らかにした。そして、ドストエフスキーの『罪と罰』の登場人物の一人ソーニャが人殺しをした恋人に自首を勧める場面を取り上げ、彼女の行為こそが、「人間の尊厳」が何であるかをまっすぐに示す行為なのだと指摘した。

2階席まで満席となった学園講堂
フロアからの質問に 答える大江氏

 その上で、一人一人が自分自身にとっての「人間の尊厳」のあり方を具体的に確かめることを通じて、自覚した個を確立することが重要であり、それこそが今衰退しつつある「自立した精神」の再建の道であると訴えた。さらに、広島・長崎の経験から日本人が戦争の反省を踏まえて打ち出した戦後日本の非核三原則を例に、われわれ日本人は、本当に自立した精神のもとで、この原則を「人間の尊厳」に賭けて守り抜く覚悟を持っているのだろうか、という重い問いで講演を締めくくった。
 セン氏は大江氏の講演に対する応答という形で、手短な意見表明を行った。まず、大江氏の「自立した精神」、「自覚した個」という視点からのモラリティの再建という主張に賛意を表明した上で、個を超えた共同体や伝統を強調することが、いかに個人の精神の自立を阻み、抑圧的な社会を生み出すかということに注意を促した。

大江氏に質問する植山さん
セン氏に質問する天池さん

 その後、若い世代との対話をという両氏の希望に添う形で、フロアの植山あすかさん(南山大学外国語学部四年)、山口昌志さん(同総合政策学部三年)、天池教昌さん(同大学院経済学研究科二年)、田上倫和さん(南山高校男子部二年)、鈴木えりかさん(同女子部二年)の五名から質問が出され、両氏がそれに応答するという展開となった。特に、読書の仕方についてや、本学の教育理念であるキリスト教精神の位置づけについてなど若者らしい問いかけに、両氏も正面から応答し、予定の時間はたちまち過ぎてしまった。
 最後に、エピソードを二つ。控え室で著書にサインを求められた大江氏は、驚くべき丁寧さで、相手の名前と添え書きを記し、慎重に印を押しておられた。また、セン氏と握手した際の、氏の掌の赤子のような柔らかさにも驚かされた。講演の際の両氏の謙虚さと精神の柔軟さの秘密を垣間見たような気がしたことを付け加えておきたい。
(小林 傳司 人文学部教授ノーベル賞フォーラムワーキンググループ)