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持続可能な世界秩序論

深井 慈子


深井 慈子 ふかい・しげこ 

総合政策学部教授、総合政策学科。
専攻分野は国際政治学、比較政治。長期研究
テーマは「持続可能な世界秩序論」。
短期研究テーマは「岸信介と日本の政治」。
担当科目は『総合政策入門』、『政治過程論』など。


 持続可能な発展は一九九二年の地球サミット以来、流行語になった観があるが、この言葉は、子々孫々、自分たち同様に自然の恵みを享受できるような形での経済の発展という意味合いで使われている。裏には現状を続ければ、地球の生態系は破壊され、食糧、資源、水等必要なものは不足し、温暖化ガスや有毒廃棄物ばかり増え続け、人間の住めない世界になるだろう、という認識がある。
 今私が最も関心を寄せている研究対象は、持続可能な「世界秩序」である。持続可能な「発展」ではない。少なくとも工業化先進国(以下、先進国)は循環定常型経済を目指すべきである。「足るを知る」という自然の摂理に基づくシステムに戻るべきだ。工業化途上国(以下、途上国)も先進国のパターンを繰り返さず、自然資源を簒奪浪費しない新しい循環型発展ができると私は考えている。
 循環定常経済を目指す先進国と循環型発展をめざす途上国が共存し、人やアイディアが自由に交流できる持続可能な世界秩序はどうしたら構築できるか。これは、人類共通の夢ではあるまいか。見方によれば、夢というより、夢物語じみているかもしれないが、この夢が私の研究テーマである。
 持続可能な世界秩序の形成のためには、資源の開発・貿易・投資・技術開発に関する哲学・方針・規範の転換と新しい制度の構築がセットになって現在の大量生産・大量消費・大量廃棄による環境破壊型からの転換の道筋をつけることが必要である。
 私の研究テーマは、そのような転換に向けて、貿易・投資のシステムをどう変えなければならないか、について先進諸国(政府・企業・業界団体・非政府団体等)のアイディアと制度変革案を調べ、実効性の期待できる政策の方向を探ることである。
 貿易・投資は、途上国の発展の方向・質のみならず、先進国、新興国の生産・消費形態、ライフスタイルを左右する重要要因である。しかし、OECD・EU内でも、持続可能性と貿易・投資パターンとの関係への問題意識が高まったのは、最近のことである。多国籍企業の行動規範作成やグローバル化批判・OECDが検討してきた多国間投資協定批判はあるが、持続可能な世界秩序構築のための構造要因としての改革を検討する研究は少ない。
 調査方法はいろいろあるが、私は、先進国の共同政策形成をリードしているEUとOECDの政策過程の分析を通じて検討しようと思っている。特に、アメリカ主導の投資自由化に批判的なNGO、持続可能性目標を掲げる国際企業組織の活動と影響力に注目している。地球レベルの政策形成過程への市民参加を促進することは、市民社会に蓄積された専門知識・脱物質主義的価値観に基づくアイディアを活かすためにも重要であり、またインターネットの発達により、インフラも整いつつある。しかし、実際はどうなのか。欧州議会におけるグリーン政党議員の多くはNGO活動家でもある。OECDも政策過程へのNGOの参加を「市民社会」からのインプットとして、政策の実効性を担保する為にも重要だと認めている。両者の政策過程への市民参加の実態における変化を調べ、将来への展望を検討しようと考えている。
 まず、持続可能な世界秩序達成をめざす貿易・投資システム改革諸理論(蓄積は浅いが)に照らして、EUとOECDにおける貿易・投資に関する制度改革への「表の動き」(研究・提言)を調べ、次に、代表的事例につき、「表の動き」を支えた「裏の事情」を内部メモ・関係者へのアンケート・インタビュー等から探る。裏の探偵作業には、議題設定から政策立案、政策決定と流れる政策科学の分析手法を使う作戦をたてている。その上で、先進国の表向きのヴィジョン・政策と裏の動機・本音を諸理論に照らし分析し、実効性ある代替案を検討したいと考えている。
 実は、私の持続可能性とのかかわりはかなり古い。日本と欧米諸国との経済摩擦をライフスタイルの摩擦という視点から分析した二十年前の論文にさかのぼる。ここで自由貿易体制の非持続可能性と代替経済システムの必要性についての問題を提起し、翌年、日本における持続可能な社会ヴィジョン試案としてモノに関するリサイクル・自給自足社会論を提示した。ついで、視野を世界レベルに広げ、地球規模での環境破壊・固有文化破壊・貧富の格差拡大コースをグローバル化してきた現行の自由貿易体制に代わる持続可能な世界経済システム原理として、モノに関する自給自足とソフトに関する自由貿易という二重原則をWorld Future Society総会において提案、学界の関心を喚起した (八五年)。その後、途上国の持続可能な発展という視点から直接投資に関しても上の二重原則に基づく地元主義原則を提示したり(九五年)、政策エリート間にどのような「持続可能な世界秩序像」が分布しているか、認識共同体と呼べるネットワークが形成されているかを調べたり(〇〇年) 、専門家・実務家・研究者・学生・市民のために、持続可能な世界を目指す実践活動に必要な知識の集大成という目的をもってユネスコが編纂したEncyclopedia of Life Support Systemの国際政治部門を総括する(〇二年)等々、振り返ると中休みもあったがよくも延々、持続可能性との関係を持続してきたものである。
 という長年のつきあいから、ゆくゆくは、持続可能な社会システム研究にグローバルな分析枠組を提供し、地球公共政策過程論という新分野にも一歩踏み込む。さらに地球政治過程における国家と非国家アクターの役割変化に関する事例研究とするとともに、持続可能な世界秩序構築という夢の実現に貢献できないか、と臆面もなく夢想している。