第16回

通じる日本語ではなく、
適切な日本語を

山口 薫



授業についていくには予習復習が不可欠

 私は総合政策学部で留学生対象の「日本語T(文法)」と「基礎演習」を担当しているが、ここでは前者についてお話しする。
 このクラスで学ぶのは、日本語を初めて勉強する留学生、或いは母国で多少なりとも日本語を勉強してきた留学生である。いずれもこのクラスで一年半(といっても実質は九ヶ月ほど)日本語を学んだ後、日本人学生とともに総合政策学科の専門的な事柄を学ぶことになる。
 このクラスは、月〜金曜日まで毎日二コマ(三時間)びっしりあるが、日本語の習得にはそれでも不充分である。そこで、留学生にはメインテキストの文法訳読本(母語で記されたもの)を購入させ、文法項目と新出語彙について事前に予習しておくように言っている。そうすれば、授業時間は練習やペアワークなどの活動のために有効に活用することができる。
 授業では、既に習った文法項目や語彙・表現を使って、更に高度な文法項目や語彙・表現を習得させていく、というのが基本である。そして、ここで習った文法項目が、どんな聞き手にどんな働きかけをする時に使われるのかがわかるよう、その文法項目を対話文の中に組み込んで示している。そうしなければ、たとえその文法項目の意味するところはわかっても、実際には使えないか、あるいは使ったとしても不自然になってしまうからである。例えば目上の人に向かって、「これ、食べたいですか」と聞くのは非常に失礼だ。留学生だとはわかっていても、人によっては怒ってしまうかもしれない。日本語は常に聞き手と自分との関係を考えて話さなければならず、また聞き手の領域に踏み込み過ぎた言語表現も差し控えなければならない言語だからである。それゆえ、その日本語表現が実際に使われる場面や状況を考えた指導をしているのである。
 このように、学習内容としては日本語の基礎的な文法や文型を中心にしてはいるが、読解や聴解、作文などの練習も行い、さらに毎日の宿題として、漢字、文法、聴解など多くのものを出している。彼らはやがて専門書を読んだりレポートを書いたりすることになるので、「読み・書き・聴き取り」の基本的な力をつけさせることは非常に重要である。
 つまり授業時間そのものは平日三時間だけであっても、実際には午後の時間や帰寮後の時間のうちのかなりの部分を予習と復習にあてなければ、授業についてくることは困難なのである。
(やまぐち・かおる 総合政策学部講師 総合政策学科)