私は、授業で「文学」という科目を担当しています。古今東西さまざまな文学がありますが、この授業では中国古典詩を扱います。ふつう漢詩と呼ばれ、五言絶句や七言律詩など制約された文字数と形式で知られるものですが、読み方のルール(返り点、再読文字など)や文学史的な知識を身につけることが重視される場合が多く、堅苦しい印象を持つ方も多いようです。しかし授業では、詩の言葉の中に託されたメッセージの身近さとか、言葉と言葉の結びつきが醸し出す不思議な意味の広がり(言葉の化学変化のようなものと言ってよいかもしれません)、重層的な奥行き、といったものを解きほぐして示し、ふだん日本で暮らしている者ならほぼ誰もが知識を持つ漢字、すなわち異国の文字であって日本の文字でもある便利な文字=記号を通じて、21世紀の私たちは、千年以上前の異国の詩人たちの日々のつぶやきとつきあうことが容易にできるのだと、受講者に実感してもらうことをめざしています。
最近は主に7〜8世紀頃の唐の詩を材料にしています。詩の舞台となった時代や社会を詩がどう映し出しているか、また杜甫や李白など特定の詩人に絞ってその詩が詩人の生き方とどう関わっているかなど、毎回のトピックにつき2、3篇の詩を用意します。時に中国語音での朗読により、伝統的な訓読調ではわからない独特のリズムに接したり、文字を手がかりに想像力を駆使して解読する努力を促した後、詩の舞台の現在の映像を提示することにより、現実と想像の世界とのギャップを吟味したりもします。
正解一つを追求するという内容ではないので、当初戸惑う学生は少なくありませんが、詩との取り組みを重ねるうちに、わずかな字数の間に幾つも隠れている比喩の解明とか、当時の日本などとの比較とか、各詩の内容への共感・違和感とか、それぞれ関心を寄せる事柄をはっきり返してくれるようになります。毎回の意見・質問シートの反響を読むのは、何よりの楽しみです。
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