かつて民芸運動という文化運動がありました(一応今も継続中?)。民芸運動は、大正末期に思想家の柳宗悦を中心に始まった、工芸をめぐる運動でした。これは、伝統的な日用雑器に、はじめて美をみいだそうとした運動でした。私が関心を持っているのは、民芸運動の伝統の価値づけの仕方とその影響です。運動が注目した生産品の多くは、近代化とともに、時代遅れの不要品になりつつありました。例えば、かつてせんべい屋のために作られていた陶器の壺は、透明なガラス容器の普及で、これに取って代わられてしまいます。運動は、このせんべい壺のような存在に注目します。それらは、元々の使い方では確かに不要品だ、しかし、古くからの伝統を基礎とした興味深い製品だ、ならば、本来の使用法から切り離して、都会の現代生活で嗜好品として使ったら面白いじゃないかと。民芸運動はこんな風に、
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小鹿田焼のせんべい壺
(日本民芸館蔵) |
時代遅れになりつつあった様々な工芸品を、旧来の生産と使用の文脈から切り離して、新しい生活のなかにそのまま取り込むことで、モノに新たな意味づけを行ったのでした。「民芸品市場」という新しいマーケットの誕生でした。こ
の市場の誕生によって、近代化に乗り遅れていたいくつかの産地は、その後進性ゆえに高い評価を得、現在まで生産を継続させることができるようになりました。
この過程で、民芸運動がみせた「価値の転換」、よく考えると、これは工芸に限らず様々な場でもみられる実践でしょう。ほかにどんな「価値の転換」があるでしょう?民芸運動から派生して、現代の日本社会を対象に、そんなことも考えています。 |