私の研究は、「イスラーム地域研究」と呼ばれる分野に入ります。イスラーム教徒(ムスリム)が住む地域社会で何が起きているのかを
把握し、その社会発展のメカニズムを解明します。従来の「地域研究」に加えて、イスラームそのものに関する知識(法学、神学、神秘主義など)が必要とされます。ムスリムの行動指針となる「イスラーム法」に注目して法制度、日常生活の規範、思想を分析します。特定地域のムスリム事情を論ずるだけでなく、他のイスラーム地域との比較検討も重要になります。その土地の風土、伝統、慣習が考慮されているかを見るためです。
私がイスラームに「出会った」のは、大学院時代にインドネシアに2年半滞在したときでした。イスラームが生活の様々な側面に顔を出すことを見て、「近代化が進むと宗教の影響力は衰える」という大学で学んだ近代化論と全く異なる現象が起きているのを知りました。開発政策が大きく社会を変容させていく中で、人々はますます宗教に関心を払うようになっていました。特に、現代社会に起きる問題にイスラームの観点から解決方法を見出そうとする姿勢に強く惹かれました。
通常ムスリムは何か問題に直面するとよく宗教学者(ウラマー)に助言を求めます。相談の内容は家庭内問題(夫婦の諍い、相続配分)から商売上のトラブルまで様々です。ウラマーはコーランや宗教書だけでなく、他の学問分野も動員して見解を出します。広い見識が要求されると同時に、問題が起きた「状況」を考慮して判断できるかが問われます。時には、医療に関する問題、国の政策(家族計画、土地改革)、新しい金融システムの導入などの
公的問題についても判断します。ウラマーたちは頻繁に意見交換、議論をします。ウラマーの間で見解が異なることはよくありますし、助言はいくつかの選択肢で示されることもあります。
ムスリムはどのような問題に直面しているのか、また、ウラマーはどのような見解を出すのか、地域によって違いはあるのか、さらに地域は同じでも時代とともにそれは変わっていくのか。討論の現場での実見、インタビュー、新聞・雑誌、あるいは記録をたどってムスリムの知的営為を描き出すのが私の仕事です。
イスラーム世界に共通の基本原則と地域・時代の事情の間でイスラームは、多様な発展をするとともに、また一体性を求めるという動きが、同時に起きています。複眼的に事象を見ることが求められます。 |