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南山大学ホーム日本語トップ総合案内南山ブレティン171号No.7
南山ブレティン171号
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 私の研究
 変容する日本の福祉法制と行政の役割
  豊島 明子
 

豊島 明子 准教授
とよしま・あきこ
総合政策学部
総合政策学科 准教授
専攻分野は「行政法」。
長期研究テーマは「社会保障における行政の役割」。
短期研究テーマは「日本とドイツの社会福祉改革」。
主な担当科目は「行政法」。
主な著書は『行政不服審査制度の改革−国民のための制度のあり方』(日本評論社、2008年、共著)、『社会福祉における権利擁護』(放送大学教育振興会、2008年、共著)。

 私は、福祉行政のあるべき姿について、日独の制度や法理論の比較を行いながら、研究しています。日本の福祉は’90年代以降、転換期に入りました。これを端的に示すのが、ドイツを範として導入された介護保険です。右下の写真は、以前、介護保険導入後のドイツを調査するために訪れた、エアランゲン市内にある民間福祉施設の1つです。
 介護保険は日本初の社会保険による介護保障制度で、従来の制度にはない2つの特徴を持っています。それは、福祉の「契約化」と「市場化」です。「契約化」は、サービスを必要とする高齢者自らが事業者と契約を結んでサービスを利用する仕組みへの転換です。従来は、高齢者が市町村に申し込むと、市町村の責任で必要なサービスが決定、支給されました。それゆえ「契約化」は、サービス供給過程に行政が介在しない仕組みへの転換を意味します。「市場化」は、規制緩和により株式会社等の営利法人の参入を認め、介護サービス市場の創出と拡大を図る政策です。従来は、市町村等の直営か、社会福祉法人という非営利法人によるサービスが一般的でした。しかし今では企業参入が進み、サービスの供給主体が多様化しています。この結果、行政のサービス供給主体としての役割は、どんどん小さくなっています。
 「契約化」と「市場化」は、サービス利用者・事業者・行政の三者間の関係を変化させました。一見すると、行政の役割の縮小に伴い、民間事業者の役割や、個人の自己決定と責任に委ねる部分が広がったように見えます。しかし実際はもっと複雑です。行政が自らサービス供給に携わる役割は確かに小さくなりましたが、多様な事業者が参入するにつれ、これらの事業者を監督する行政の役割は、むしろ大きくなりつつあるからです。そうすると、福祉行政は、かなり複雑な伸縮を遂げていると言えそうです。
 残念ながら今の日本は、人生の最期を安心して迎えられる国とは言えません。そのため、近年の福祉政策の有効性がそもそも問われなければなりません。質と量が共に充実した福祉の実現のためには、行政がどのような位置を占め、役割を果たすべきか、変化する行政の在り様を睨みつつ、その答えを探し続ける必要があります。