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南山大学ホーム日本語トップ総合案内南山ブレティン168号No.7
南山ブレティン168号
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 私の研究
 ミシュレと19世紀フランス歴史学
真野 倫平
 

パリ第7大学
真野 倫平 准教授
まの・りんぺい
外国語学部
フランス学科
准教授
専攻分野は「フランス文学、歴史」。
長期研究テーマは「19世紀フランス歴史学」。
短期研究テーマは「ジュール・ミシュレの歴史作品」。
主な著書は「死の歴史学 ミシュレ『フランス史』を読む」
(藤原書店、2008年)。

 私は19世紀フランスの歴史家ジュール・ミシュレ(1798-1874)の研究をしている。2000年には
『フランス史』についての博士論文をパリ第8大学に提出し、2008年には藤原書店より著書
『死の歴史学 ミシュレ「フランス史」を読む』を上梓した。さらに昨年から1年間の在外研究の機会を得、目下パリ第7大学において研究を続けている。ここでは上記の著書をもとに私の研究について簡単に語ることにする。
 19世紀、覇権を握ったブルジョワジーは、自らを主人公とする新しい歴史記述を探し求めた。それは従来の王権を中心とした「王国の歴史」ではなく、第三身分(平民)を主人公とした「国民の歴史」でなければならなかった。ミシュレもまたこの課題を引き受け、それはやがて27巻に及ぶ『フランス史』に結実することになる。とはいえ40年にわたって執筆されたこの作品を一口で説明するのは容易ではない。ミシュレの初期作品はおおむね、当時の支配的な歴史哲学―ブルジョワ社会を到達点とする予定調和的な進歩主義―の影響下にある。しかしやがてミシュレが同時代の政治変動に巻き込まれ、歴史の不条理に直面するにつれ、その歴史観は変貌してゆく。
 私は本書において、ミシュレの変貌を数多くの「死の物語」を通して示そうと試みた。例えば初期の『中世史』におけるジャンヌ・ダルクの死はキリストの受難の再現であり、死を通して復活に至るという予定調和的図式に基づいている。しかし後の『フランス革命史』におけるロベスピエールの死は乱暴に中断された受難であり、歴史の不条理や暴力性を暗示している。そして晩年の諸巻においては、即物的な死の物語が延々と続けられることにより、歴史の断絶がさらに強調されている。このように、ミシュレの歴史においては物語形式それ自体が重要な意味作用を担っており、ヒストリオグラフィー(歴史記述)の問題を考える上できわめて興味深いものとなっている。