南山大学

 
人間の尊厳科目 連続講演会  第8回 (9月10日実施) 安田 教授
歌舞伎・浄瑠璃に描かれた人の情
安田文吉 教授
人文学部  専門分野:国文学
 江戸時代の印刷技術の発展や寺子屋の増加などは、庶民に知識を広げ、庶民が文化に入ってくる契機を作った。これは識字率を上昇させ、同時に人々が本を読みたくなり、書きたくなるきっかけとなった。このことが歌舞伎や浄瑠璃の発達につながったと言える。今回、当時から現在まで上演されている演目のうち、「親子の情」「君臣の情」「男女の恋愛」などを描いた作品を鑑賞した。

 徳川宗春の『温知政要』では法度で人間を縛るのではなく、人の人間性に任せて人を伸び伸びと生かすべきだということが表現されている。また死刑反対論者でもあった宗春は刑を科すときはきちんと調べなければならない。特に死刑というものは執行してしまうと取り返しのつかないことになるから、死刑はすべきではないと論じている。このことから宗春は人を縛らないで人間の尊厳を大切にしている、と言えるだろう。

 続けて『菅原伝授手習鑑』においては親子の情愛と君主への忠が描かれている。母親の子どもへの情愛が描かれているが、それ以上にその子どもを犠牲にしてでも君主の子を助けるという君主への忠が描かれている。こういったことは今の我々の物差で量ってはならず、当時はどうだったかということを考えなければならないということを映像を使いながら解説された。

 また講演の中で、オペラ版の『仮名手本忠臣蔵』の映像を流しながら能や歌舞伎の忠臣蔵との違いなどを教授の解説とともに鑑賞した。同じ忠臣蔵を演ずるにも、歌舞伎の場合は奈落から死者が上がってくるが、能の場合はどこからともなく亡霊が現れる、というように歌舞伎と能では演じ方に違いがある。また実際に脚本に書かれていても必ず劇の中ではカットされ、上演されないシーンがあるので興味のある人は脚本の方も見るともっと面白くなるというような歌舞伎や能自体の面白さについても触れられていた。

  いつの世の中も「人の情」は共通するものだが背景となる時代の社会情勢、ものの考え方の違いも見ないといけない。当時は地芝居が禁止されていたが、祭礼などの地域行事の際に上演されることは許可されるなど例外措置もあり、禁止されたものでも例外で許してしまうという日本のおおらかさがあった。しかし最近はそのようなおおらかさがなくなり、荒んでいて、危機感を感じる。

( 取材:外国語学部 4年 鈴木綾 )