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マイケル・シーゲル第一種研究所員による「公正と平和」プロジェクトの関連著作物が続々と刊行されてきました。去る2005年9月に開催された日豪合同ワークショップ「9.11事件以降の世界における公平と平和を求めて:日本とオーストラリアのためのオルターナティブを構想して」での議論に基づき編集された報告書『アジア太平洋の安全保障:9.11事件以降』(英語版報告書は、Securing the Region Post-September 11というタイトルでオーストラリアのラトローブ大学から出版。)をはじめとして、ワークショップでの議論の中から日本国憲法第九条の問題に関わる部分をピックアップしてまとめ直した『憲法第九条に関する一考察』、その英語版であるSome Considerations Regarding Article 9 of the Japanese Constitution)などが刊行されています。いずれも無料配布中ですので、ご所望の方はご一報下さい。詳細については、http://www.nanzan-u.ac.jp/ISE/ajworkshop/をご覧下さい。
また、ワークショップの成果を踏まえた書き下ろし論文集の出版準備も着々と進められています。英語版の論文集は、Michális S. Michael、 Larry Marshall、Michael Seigel、Joseph Camilleriの編集により、Asia-Pacific Geopolitics: Hegemony vs. Human Securityというタイトルで、Edgar Elgar Publishingから本年秋頃刊行される予定です。そして、日本語版の論文集は、山田哲也非常勤研究員の助力を得ながらマイケル・シーゲル第一種研究所員が主要な編者として準備を進めており、『アジア太平洋と欧米の狭間―岐路に立つ日本とオーストラリア』というタイトルで本年秋頃刊行される予定です。
そして、『社会と倫理』第19号の編集作業は、山田秀第一種研究所員と奥田太郎第一種研究所員によって順調に進められています。今号は、3本の特集(「ジョン・ロールズの政治哲学」、「人間の尊厳」、「小泉信三賞受賞記念祝賀懇話会」)が組まれ、最新の書籍の書評も2本収録された贅沢な内容となっておりますのでご期待下さい。2006年5月10日刊行の予定です。
今回は、 関西大学法学部の寺島俊穂先生のご講演「日本国憲法と非暴力の可能性」をお届けいたします。
去る2006年1月14日(土)、南山大学J棟Pルームにて、2005年度第6回懇話会が開催されました。講師に名古屋商科大学の高浦康有(たかうら・やすなり)先生をお招きして、「企業とNPOの協働と倫理―対等な関係性の構築に向けて」というタイトルでご講演をいただきました。
高浦先生はまず、米国で1980年代以降、企業がNPOとともに地域の問題解決に取り組む動きが顕著になり、日本でもいくつかのケース(たとえば、帝人のバルーンシェルター技術によるNPOとの連携事業など)が現れてきている、という現状を確認した上で、こうした企業とNPO相互の資源提供は喜ばしいことだが問題もある、と議論を切り出します。高浦先生は、NPOが企業への依存度を増していくことで企業に好都合に利用されてしまいかねず、それは公共的使命をもつNPOにとっては危機になりうる、と指摘します。ここには、企業のコミュニティ支援活動が依って立つCSRの問題もあります。高浦先生によれば、昨今のCSRブームの中では企業の戦略性とCSRの結びつきが強く、これはそれ自体悪いことではないが、好都合で安易なNPO利用を促しかねない、と考えられます。そこで、「パートナーシップ」という協調的な香りの背後にある問題を浮き彫りにする方向へと論が進みます。高浦先生は、企業とNPOの関係性を分析するフレームワークとして、Crane & Mattenによって提起された企業とNPOの協働に関する批判的見解を用いて、日本の具体的な協働ケースを検討します。その批判的検討のフレームワークとは、(1)不均衡な力関係、(2)成果配分の偏在、(3)NPOの独立性への脅威、の3つです。
まず、(1)不均衡な力関係について、NPOには独自の専門性、知識、コミュニケーション能力、社会的信頼という力があるとはいえ、どちらかと言えば、企業がNPOの知識とノウハウをマーケティングに利用する「NPOの下請け化」が起こりやすい、と高浦先生は指摘します。そして、NPO側が期待するメリットを得られなかった日本でのケースとして、INAXと福祉系NPOによる高齢者生活支援協働活動が挙げられました。次に、(2)成果配分の偏在について、協働事業は、事業を行う側の自己完結型に陥らず受益者が潤うように工夫されているかどうかが問題であり、思い先行型ではうまくいかない場合が多い、と指摘されます。発想はよいのに成果が出なかった日本でのケースとして、青森の「NPO応援団」クレジットカードシステム事業が挙げられました。さらに、(3)NPOの独立性への脅威について、NPOのもっているミッションと企業のもっているミッションをそれぞれ尊重しつつ、ともに持続可能な成長を遂げるべく折り合いをつけることの重要性が指摘されます。(1)の作用もあり、どちらかと言えばNPO側の自律性が妨げられる傾向があると考えられます。そうした傾向にもかかわらず相互の自律性が保たれた成功ケースとして、環境文明21とNECの環境問題対策事業が挙げられました。
こうした検討に基づいて、高浦先生は、企業とNPOの協働の倫理的チェックを促す社会的な仕組みを提案しました。それは、(i) NPOによる協働事業の社会的評価プロセス、および、(ii) 協働マネジメントの規格化です。(i)については、企業の社会的貢献活動は、企業の広報活動にとどまらず、第三者機関による一定程度公平で客観的な評価を受けることが必要である、と指摘されます。具体的には、パートナーシップ・サポートセンターによる表彰事業が挙げられます。この表彰事業では、目標設定、経過、事業結果、インパクトの4項目からなる評価シートが使用されており、この項目の中には上に見た3つのフレームワークが対応していて、一定程度の公平性が確保されていると考えられます。(ii)については、ISOのSR(Social Responsibility)規格のように、ステークホルダーが認証・ガイドラインづくりに関わることが必要だと指摘されます。協働マネジメントに絞り込んだ認証制度はまだ存在しておらず、そうした認証制度の構築に当たって上述の3つのフレームワークが役立つだろうと見込まれます。以上の提案の後、高浦先生は、今後の課題として、どのような条件において対等な関係が崩れてしまうのか、また逆に、どうすれば不均衡な関係を脱することができるのか、といったことについての実践的な側面での論証が必要である、と述べ、論を締めくくりました。(文責|奥田)
社会倫理研究所所長 澤木勝茂
2005年3月末日付の小林傳司所長の退職に伴い、澤木勝茂新所長に交代した。尚、小林傳司氏には、非常勤研究員として今後も研究所の活動に対して側面からご援助いただけることとなった。又、昨年度学術振興会特別研究員に採用され、社会倫理研究所研究員として任用していた杉原桂太氏の本学数理情報学部への着任に伴い、同氏を第二種研究所員として任用した。
一昨年開設したウェブサイトの維持管理は引き続き奥田所員が担当し、主に懇話会・定例研究会の案内や記録など研究所活動に関する情報発信に努めている。第一種・第二種研究所員の協力のもと、隔月で研究所のオンライン・ニューズレターを発信している。本研究所発行雑誌『社会と倫理』をオンライン閲読可能にしている。
本年度の新たな活動としては、国内外から14名の報告者を招いた日豪合同ワークショップ「9.11事件以降の世界における公平と平和を求めて―日本とオーストラリアのためのオルターナティブを構想して」が9月12〜15日の4日間に亙って実施されたことが特筆される。本ワークショップ開催のために研究所は周到な準備を心がけ、二箇年に亙る懇話会及び研究会を継続的に重ね、シーゲル所員は海外との緊密な連絡に当った。
懇話会は実質7回開催した。研究会は1回開催した。先に実質7回と書いたのは、例年の形式を踏んだ懇話会を5回、更に今年度は「IVR神戸レクチャー」招待教授ウルフリット・ノイマン氏を迎えてのシンポジウム形式の懇話会、並びに南山高校三年生の福岡佐織さんを招いて「小泉信三賞受賞記念祝賀懇話会」を開催したことによる。論題と報告者の詳細は次の通りである。
| 回数 | 報告者 | 論題 |
| 懇話会 | ||
|---|---|---|
| 第1回 | 馬渕 仁氏
大阪学院大学教授 |
多文化主義の捉えなおし
―英語圏・オーストラリアの試行錯誤に学ぶこと― |
| 第2回 | 寺島 俊穂氏
関西大学法学部教授 |
日本国憲法と非暴力の可能性
【統一テーマ:<帝国>の時代における非暴力の可能性】 |
| 君島 東彦氏
立命館大学国際関係学部教授 |
人道的危機への非暴力的介入―日本国憲法とNGO―
【統一テーマ:<帝国>の時代における非暴力の可能性】 |
|
| 第3回 | 中西 久枝氏
名古屋大学大学院国際開発研究科教授 |
9.11事件と中東イスラーム世界 |
| 第4回 | 神崎 宣次氏
京都大学大学院文学研究科(COE) |
予防原則の三つの不明瞭さ
【統一テーマ:倫理学の可能性】 |
| 佐々木 拓氏
日本学術振興会特別研究員 (慶応義塾大学商学部) |
責任に関する言い訳アプローチ:自由意志の場合
【統一テーマ:倫理学の可能性】 |
|
| 第5回 | ウルフリット・ノイマン氏
フランクフルト大学法学部教授 |
人間の尊厳の原理
【IVR日本支部共催、愛知法理研究会後援】 |
| 高橋広次 | ノイマン教授「人間の尊厳という原理」への一コメント | |
| 井川昭弘 | ノイマン先生ご報告に対するコメント | |
| 平田丈人 | 科学的合理性と社会的合理性の間に立つ人間の尊厳 | |
| 山田 秀 | 人間の尊厳についての自然法論的考察 | |
| 西野基継 | 人間の尊厳と人間の生命 | |
| 小泉信三賞受賞記念祝賀懇話会 | ||
| 福岡 佐織氏
南山高等学校女子部3年 |
在宅介護だから出来たこと、在宅介護でも出来なかったこと
【コメンテイター: 北川喜己名古屋掖済会病院救命救急センター長・救急科部長・外科部長】 |
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| 第6回 | 高浦 康有氏
名古屋商科大学総合経営学部助教授 |
企業とNPOの協働と倫理―対等な関係性の構築に向けて―
【共催:南山大学経営学部】 |
| 研究会 | ||
| 第1回 | 深井 慈子氏
南山大学総合政策学部教授 |
地球益外交:
持続可能な世界の構築をめざす立場から日本の対外政策を考える |
| 編著者 | 名 称 | 発行日 |
| 社会倫理研究所編 | 『社会と倫理』第十八号 | 2005年7月30日 |
| マイケル・シーゲル著
原田容子訳 |
『憲法第九条に関する一考察』 | 2006年2月2日 |
| ミカーリス・マイケル、
ラリー・マーシャル、 マイケル・シーゲル著 中野涼子訳 |
『アジア太平洋の安全保障―9.11事件以降』 | 2006年3月20日 |
| Michael T. Seigel | Some Considerations Regarding Article 9 of the Japanese Constitution | 2006年3月 |
ウェブサイト開設により、中部地区を中心に、本研究所の活動はかなり認知されるようになってきており、遠方からも、懇話会案内の日程に合わせて参加して下さる方も見られるようになった。昨年度開設された水波文庫は、ウェブサイトを通じての案内も功を奏して、問い合わせ及び貸し出し実績が高い。また、地元企業であるNTT東海電話帳より企業倫理研修の依頼を受け、オブザーバとして微力ながら協力させていただいた。